9月24日(月 祝)、牛頭山 宝寿院(津島市神明町)の【満月瞑想会】を体験した。
「お寺さんは坐禅をやるというイメージをお持ちの方も多いと思うんですけど、坐禅を行うのは日本の仏教の中でも禅宗だけなんです。私たちは真言宗に属しておりまして、高野山とか、四国の八十八箇所のお参り、犬山の成田山、大須観音などが私たちと同じ宗派です。
今から1200年ほど前に日本仏教の礎を築かれた弘法大師・空海様が、中国に留学されて学ばれたのが、この真言密教なんです。皆さんが体験していただくのは【月輪観】(がちりんかん)と言いますが、この瞑想方法も空海さんが中国から持ってこられたものの一部なんですね。
私たちもまだまだ修行が行き届いておりませんので、皆さんに体験していただくのは瞑想法の導入部分ではありますけれども、それでも充分心のための良い修行になります。今日覚えたことは、是非ぜひお家でも実践なさってください」
講師は、温かい筆致の仏画でお馴染みの、落合宥貴副住職だ。
真言宗は、御存じ弘法大師 空海上人が遣の高僧・恵果和尚から直伝された密教。
“密”教という言葉の通り教義の全てを公にする宗派ではない真言密教だが、数多い(秘法なので窺い知ることはできないが)瞑想法の中でも公開されているものの一つが、この月輪観瞑想という訳だ。
「心は多少の緊張感を持っていただくと良いと思うんですけど、体はリラックスしてください。最初に体操から始めてまいりましょう。瞑想に入る前に、まず体の色々なものの流れを良くしていきます」
座布団の上で正座して合掌し、背筋を伸ばしてゆっくりと呼吸する。
額を床に着ける、足の側面に沿って手を伸ばす、掌を上方から体の前面に沿わせながら下ろす、すべての動作はゆったりとした呼吸を意識して行われる。
「最後に行った所作は、瞑想から出ていく時にもやっていただきますので、よく覚えておいてください」
体操の後、塗香(ずこう)の作法を教わる。
「右手で左手の薬指の付け根に塗香を置き、指から手、腕から体へと馴染ませてください。指にもそれぞれ意味がありまして、薬指は水を表します。イメージが重要です。皆さんは水に粉を置くことで、富士山麓の湧き水のような綺麗な水が湧き出ているようなイメージを凝らして、心と体を清めていただきたいと思います」
一同で読経すると、瞑想の準備に入る。
般若心経を詠唱すると、堂内の空気が更に一層澄み渡ったように感じた。
「本堂の仏様にお参りをしていただくんですが、皆さんが普段お参りしていただく時の合掌だけではなく、今日は五体投地三礼(ごたいとうちさんらい)という正式なお参りの仕方を行います」
起立し合掌した後、右の膝、左の膝の順で地面に着ける。そして、右肘、左肘を地面に着け、額と掌も地に着ける。掌を上に返し、中指を少し上げる。上げた中指には、仏様の御足があるような心持にする。
この所作を三回繰り返すと、『五体投地三礼』となる。
「板に描かれた円をお月様だとイメージして、瞑想に使っていただきます。
座布団を三角形にして、直角の部分にお尻を乗せます。足の組み方は胡坐(あぐら)でも結構なんですが、正式には半跏坐(はんかざ)と言いまして、胡坐みたいなところから右の腿の上に左の脚を乗せる形です。
手は、右の手の下に左手を置き、親指を付けます。
背筋が曲がらないように、上から吊るされているような感覚を意識してください。そうしましたら、どちらの回りでも良いですので、自分の体を大きく揺らしてみてください。段々振り幅を細かくしていき、最後には吊り上げられるようなところで落ち着けて、体を整えていきます」
呼吸を整えていく。
「ゆっくり、ゆっくり、鼻から吸って、口から吐くようにしてください。自分のペースで良いですから、ゆっくり、深い深い深呼吸を繰り返してください。自分の体の中の悪いものを出して、綺麗な空気を体の中に取り入れて……そんなイメージで。体を折り曲げて、吐き切っていただいても結構です。」
照明が蝋燭の炎だけとなると、いよいよ瞑想に入る。
「ゆっくり、薄く目を開けてください。半眼といって、目が半分開くような感じです。皆さんの目の前には、丸いお月様があります。この丸い形を良く覚えたら、また目を軽く閉じてください。今観た丸いお月様を、今度は瞼の裏に写します」
「その丸いお月様を、今度は自分の体の中に取り込んでいきます。瞼の裏に写した丸いお月様を、まずは頭の天辺に移します。それから、目を通って、鼻を通って、口を通って、喉を通って、胸の真ん中まで移してください。胸の中でサッカーボールくらいに収まるような、そんなイメージを凝らしていただきたいと思います」
「お月様を胸の中に取り込みましたら、今度は皆さんが想像する一番綺麗なお月様をイメージしてください。今日はちょっと曇ってるかもしれないですが、秋の澄んだ空にはっきりと浮かぶようなお月様、想像する一番綺麗なお月様が、皆さんの胸の中にあります。しばらく、胸の中でお月見を楽しんでいただきたいと思います」
「今度は、皆さんの体がすっぽり収まるくらいの大きさまで、お月様を広げていただきたいと思います。円盤状のお月様、水晶玉のようなお月様、自分がしっくり来るお月様を想像していただいて、そのお月様が自分の体を覆うくらいに広げていってください。
広げていただきましたら、光り輝くお月様の光の中に、自分の体ごと溶け込ませてください。自分の姿かたちがお月様の光の中に溶け込んでいく、お月様と一体となっている、そんなイメージで。
そして、呼吸だけを意識してください」
「これから月輪観で皆さんにやっていただくことを説明します。この後時間を取りますので、皆さんご自分のペースでやっていただきたいと思います」
「まず、自分のお月様を、どんどんどんどん広げていきます。
自分の体をすっぽり覆うようなお月様をどんどん広げて……
この本堂まで広げて……
津島神社まで広げて……
津島市内まで広げて……
日本を、地球を、月を取り込んで、太陽系……
どんどん自分が想像しうる一番遠くまで、お月様を広げていきます。宇宙の彼方まで、光り輝くお月様で一杯にしてください」
「途中、私が鐘を鳴らします。そうしたら、広げたお月様を、反対にどんどん縮めていきます。
太陽系から……
地球……
日本……
どんどんどんどん縮めて、また自分をすっぽり覆うくらいの大きさまで戻してください。
それから、ゆっくりゆっくり自分の体をお月様から浮かび上がらせて、お月様を胸の中に、サッカーボールくらいの大きさに戻す……
そこまでを、やっていただきたいと思います」
実際に体験してみると、月を広げるイメージを浮かべるのが大変だったが、それ以上に広げた月を縮ませるのが大変だった。
機会があれば、また是非とも参加してみたいと思う。
「中秋の名月ですし、外で体験していただくことも考えたんですが……蚊が凄くて、断念しました」
副住職は、そういって笑った。
寺院にご縁を結ぶと、お寺の印象が変わる。
現代にも通じる教えに触れる、弘法大師への念が変わる。
月輪に心身をうつし、月の眺めが変わる。
だが、寺も、大師も、月も、何一つ変わらない。
変わったのは唯一つ、己の心の在り様だ。
月輪瞑想はほぼ毎月開催されており、11月は21日(水)19時からの予定とのこと。
また、写経・写仏会なども定期的に開催されており、11月4日の「津島でら寺巡り」では合わせて寺宝の特別公開が行われる。足を運んでみていただきたい。
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